蚊と花と
蚊の主食は実は花の蜜だということを遠い昔に習いました。でも、その記憶が呼び起こされる機会が一度もなかったのは、実際に蚊が花の蜜を吸っている姿を見たことがなかったからでしょう。
朝、外には猛暑日の予報は確実だろうと思わせる蒸し暑い空気が、どっしりと居座っていました。そんな中でも青紫のアジサイやマツムシソウが色づき始めていて、その涼やかな姿に引き寄せられるように近づいていくと、マツムシソウの花序にはアリが沢山集まっているのが見えました。きっと蜜が沢山あるのだろうな~と思いながら、その手前に咲き始めたばかりのアトランティアに視線が移りました。こちらにはアリは少ないようでしたが、縞々の腹模様に細長い肢をもった虫が一匹・・・これは蚊?!
虫に刺されやすいを自称する私の戦いの場は、常に手足や顔などの最前線で、夏に野外に出れば常に臨戦態勢です。蚊の羽音にもブユの独特な飛び方にも最大限の警戒をしていても刺されてしまうのですが、目の前の蚊は私が近づいても見向きもしない様子で花の蜜を吸い続けています。不思議な光景だとまず思ったのも、そもそも蚊の主食は花の蜜だということをすっかり忘れていたからでした。あの時教えられたことは本当だったんだと、数十年ぶりに実証例が示されたわけです。
吸血する気が無いと分かればこの景色を面白いと眺めるだけ眺めて会社へ向かったわけですが、よく考えてみれば、花の蜜で腹を満たした後は、オスであれメスであれ種の保存すなわち繁殖への行動へ移るわけで、近い将来再び自らの血が犠牲になる可能性を残してしまったことになります。そう考えただけで何だか腕がかゆくなってきそうです。