裏切られ
3月に小笠原の父島を訪れた際、とても不思議な生き物を見つけました。それは大きさといい、模様といい、まるでカラスウリを縦に半分にして伏せたかのような姿でした。とてもゆっくりでしたが、じりじりと動いているのが分かったので、きっと昆虫なのだろうと想像したのですが、不思議さと怖さはいつも背中合わせです。ひっくり返して確認したい衝動より恐怖が勝ってしまい、この時は何も接触しないまま帰ってきてしまいました。
さて、この生き物の正体が判明したのは、エゾハルゼミの声が大きくなりだした頃でした。ちょうど小笠原諸島へ毎年訪れているという方に会う機会があり、そのネットワークの力を借りたところ、あっという間に答えにたどり着き、「オガサワライラガ」という昆虫(固有種)の幼虫であることが分かりました。
驚いたのは「イラガ」の仲間だということです。イラガは漢字では「刺蛾」と書くように、ほとんどの種の幼虫は毒のある棘をもっています。絶対に素手で触ってはいけない幼虫です。それなのに、こんな毒もなく棘もなくコロンとかわいらしい姿のイラガもいたなんて!固定観念を大いに裏切られて、これは現地のガイドさんから教えてもらった、アイランドシンドロームの最たるものかもしれないと、一人大興奮でした。
帯広は、近ごろ外へ出るとどこからともなく花の甘い芳香が漂い、大型のチョウも舞うようになりました。水辺で並んで給水するエゾシロチョウを見かけて、ふと彼らの幼虫時代はどんなだったかな?と調べてみて、少し後悔しました。オガサワライラガとは逆で、エゾシロチョウは、優美な成虫の姿からは想像できない毛虫の姿でした。チョウだけど毛虫の場合もあるのだと、またまた固定観念を裏切られました。
固定観念のおかげで発見の驚きを味わうこともできますが、一方で、新しい発見の目をくすませてしまっている可能性も多くあるだろうなと、改めて感じた初夏のひとコマでした。
