時速80キロ
山行の帰り道、ナナカマドの白い花の奥から美しい歌声を響かせているノゴマの姿を探しながら歩いていたら、先を行く二人組が、指を指して教えてくれました。視線の先には、むしゃむしゃと草を食む茶色い生き物の姿が見えましたが、茶色=エゾシカの認識が強い頭は、「シカの子供?!」と瞬時に思います。それにしては小さいような・・・と、違和感が解消されるまでわずかに時間がかかりました。「ウサギだー!」
北海道に住み始めてから、一度も会えていない生き物の代表格がフクロウとウサギです。どちらも会えそうな場所の目星をつけて、何日も粘れば会えるのかもしれませんが、彼らは基本的に夜行性で、昼行性の私とは活動時間帯がずれていますし、無理をせずともいつか会える日は来るのではないか、などとのんびり構え続けて長い時が経っていました。そのチャンスがまさに目の前に現れた瞬間でした。
さて、数メートル先にいるエゾユキウサギ、初めて目にすると思っていたよりもずっと大きい!家猫より大きそうです。そして、意外なほど人を気にしていません。後ろからやって来た人たちが次々と立ち止まってその様子を眺め始めたので、観客の数はどんどんと増えていきましたが、耳だけはしっかりとこちらを向いているものの、野生動物特有のいつ逃げるか!という緊張がまるで感じられません。お気に入りの草を食べ切ってしまったのか、身体の大きさにやや不釣り合いな長い脚をのそりのそりと動かして移動した後も、引き続きもぐもぐ・・・。逃げる様子はありません。隣の方が、海外からの同行者に「super rare!」と説明しているのを、心の中で「ほんとに!」と思いながら、後から来る人たちに場所を譲って、帰り道に戻りました。
家に着いてから改めてエゾユキウサギについて調べてみました。時速80キロで走ることができる、日本の哺乳類最速とのこと。ガゼルやサラブレッドよりも速いと聞くと、この体の大きさで!?と更に驚きです。どうりで私たちを見ても逃げないはずです。今のところ100mを4.5秒で走ることができる人間は現れてはいません。あののんびりとした行動は、この国最速の自負があってのことかと、納得せざるを得ないのでした。