風の中
山の上は大抵風が強いものです。立っていられないほどではなくとも、登りで滝のようにかいた汗を一気に冷やし、ぶるぶると震えさせるに十分な風が吹いていることは珍しくありません。そんな姿を横目に、ふわりふわりと優雅に飛んでくるのがウスバキチョウです。
時に風で羽が横倒しになりながらもチシマキンレイカの黄色い花の上を飛び回っている姿に、何もこんな日まで頑張らなくても・・・とも思いつつも、そのたくましさには感服です。かと思えば、砂礫の上に羽を広げてぴたりと静止していることもあり、その無防備すぎる姿は、(構図にこだわらなければ)写真に収めるには非常にありがたい被写体となってくれます。
さて、写真のウスバキチョウは、その名前の通り羽が薄く下の小石が透けて見えています。遠目からはなかなかの擬態力で、黄色や黒の紋はこうして生かされるのかと納得するのと同時に、その羽の先をよくよく見ると随分と傷んでもいることもわかります。氷河期の生き残りとも言われる彼らは、日本では大雪山系と十勝岳連峰の高山でしか見ることができません。厳しい環境の中で暮らすということはこういうことなんだと、そのままの姿が語っているようでもあります。でもその厳しさは、今や冷たい風の強さではなく、吹く風がどんどんと熱くなっていくことかもしれません。連日の猛暑の中、涼しい環境でしか生きられない生き物たちの行く末も、案じずにはいられません。