始まりと終わり
十勝川沿いの堰堤でサケの遡上がなかなか見られなくなり、秋の楽しみが減った寂しさをここ何年か感じていましたが、思わぬところで彼らの姿を見ることができました。別の目的があって通った林道の途中、山を分け入るようにカーブを曲がり、いくつか小さな橋を渡り、少し川幅が広がった開けた橋にさしかかった時に、水の中に大きな魚影がいくつもあることに気づきました。「サケだ!」
そこは深さのある左岸が終わり、上流は小さくて流れの速い段差がいくつも続いていくような場所でした。海からの距離は5キロほどしかないようですが、橋の上から見ていてもほとんどのサケは傷だらけで、力尽きて浅瀬に打ち上げられた姿もあります。その中の一匹の脇に、卵がまとまって沈んでいるのが見えました。通常、卵は急流にのまれないよう小石や砂の下に隠されるため、何か想定外の力が働いてそうなってしまったのかもしれません。それがどんなものであるかを知る由はありませんが、命の始まりと終わりはこうして隣り合っているものなのだということを直に物語る、強烈な一場面でした。
さて、サケが生まれた川に戻ってくることは広く知られたことですが、同じように産卵のために川を遡上するアユは、自らが生まれた場所に限らず、環境条件の良い川を選んで遡上することができるのだそうです。サケの母川回帰の能力は、多くの研究者を魅了するテーマのひとつになっている一方で、諸刃の剣にもなりうるかもしれません。もし、育った川が次世代の生育に適さなくなってしまったら、アユのように未来を託す川を選べる方が、生き残る可能性が高まるからです。サケが故郷に戻る景色を残していくことは、北海道に暮らし、水の仕事に携わる者の共通ミッションだな、改めてそう感じました。