流されてみた
まだスマホが普及する前、見知らぬ土地を歩くときに身につけた技のひとつが、人の流れに乗ってみるということでした。行きたい場所だけを決めて出発し、着いた駅を出た瞬間に、はたと「この先の道順は?」となった時に、この技で切り抜けたことが何度かありました。近ごろは、道内でレンタカーの流れに乗ってみて、行ったことのなかった観光スポットにたどりついたりする面白さも知り、この週末もその派生バージョンを楽しみました。
何度も訪れたことのある紅葉スポットに向かう途中、普段は気に留めたこともない場所に車が何台も止まっているのに気づきました。ナンバーは札幌や旭川、北見にレンタカーも少しあり、帯広や十勝ナンバーは他にありません。辺りを見回すと、山へ向かう林道の入り口があり、先に着いた人が何人かそこへ吸い込まれていくのが見えました。よし!と今回の流れに乗ってみる小さな旅がスタートです。
ごろごろとした石の多い山道は、足元に風穴が沢山あり、そこから湿った空気が流れ出て、周りの苔たちを青々とさせていました。見上げれば、ナナカマドやカエデの仲間が赤く色づいていて、どこを切り取っても緑と赤の対比が美しい道でした。先を知らないなりに、景色を楽しみながら進んでいると、後ろから大きな望遠カメラを抱えてやってきた方に「見られましたか?」と聞かれ、逆に「何が見られるんでしょうか?」と、不思議な会話を交わすことになりました。その方は親切にも「ナキウサギですよ」と教えてくれ、初めてその道の目的地を知りました。なるほど、今は冬ごもりに備えて餌を蓄える大事な時期ですから、赤く色づいた葉っぱをくわえて忙しく走り回っているナキウサギの姿を、皆、写真に納めようとしているのでしょう。
着いたところは、明るい開けた場所でした。そう多くはないものの、道の奥で何人かのカメラマンが控えめな声で談笑したり、岩に座ってナキウサギを待っているのが見えました。彼らの邪魔はしないように、静かに腰を下ろして待ってみましたが、この時は山装備をしていませんでしたので、何度かナキウサギの声を聞いた後に、つるべ落としの太陽に急き立てられるように帰路につきました。
今回はナキウサギに会うことはできませんでしたが、とてもいい道を教えてもらい、収穫は十分でした。新緑の季節も気持ちが良さそうですし、何と言っても、来ようと思えばいつでも来られる距離なのです。でもやはり灯台下暗しと言うのか、身近なところは知っているようで知らないことがごろごろしているな~と改めて思うのでした。
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