彼らの目線
寒さと静けさは比例しそうなものですが、秋の海は必ずしもそうではありませんでした。日の出に向けて鳥たちの鳴き交わしが盛んになるのは夏も秋もあまり変わりがなく、にぎやかな声に外を覗いてみたら、空がオレンジに染まるよりもずいぶん早くに起こされてしまったことに気づきます。眠い目をこすりながら、朝露で冷たい足を気にしながら外に出ると、声の大きさの割に影は少なく、まだ夢うつつに揺られているような気分です。
海に波はなく穏やかです。離着水したりしているにぎやかなカモメやカモたちから離れた場所に、アオサギの姿がありました。ぴんと首を伸ばし、じっと一点を見つめている姿は、ちょっとした物音でも糸が切れてしまいそうな緊張感があります。サギはこの姿がかっこいいのだと、遠く後ろからシャッターを押します。
さて、写真の世界には日の丸構図と呼ばれるものがあります。日本の国旗、日の丸のように被写体を写真の真ん中に配置する構図を指しますが、プロのように印象的な写真を撮りたかったら、この日の丸構図は避けた方が良いと言われています。知識としてはそのことを承知しているのですが、自分の目線で被写体を追いかけてしまうと、どうしてもそうなってしまうのです。ですが、被写体の目線を想像してみると、彼らが見ているもの、彼らの前に広がる景色は、私自身が見ているものとは高さも広がりも違ったものであろうことは確かです。そこまで想像して表現できるようになれば、自分自身の世界も広がっていくのかもしれません。思いっきり日の丸構図でとらえられたアオサギは、どんな空間で何を見つめていたのでしょう。もう一度あの時へ戻って確かめてみたかったです。