雀の教え
この辺りの平らな大地の上には、まだ積雪と呼べるほどの雪はなく、氷点下の空が漂うばかりです。枯れ草で覆われた広い河川敷を、絶えず強い風が吹き抜けていきます。外に出たらもちろん、手足も顔もちぎれそうに凍えますが、車の中から眺めている分には、何やらキジトラの猫の毛が柔らかくなびいているようにも見え、ただ寒々しい景色、という訳でもありません。
冬が来るたびに数十羽のオオワシやオジロワシたちが集まったこの場所は、河川工事の影響か、サケの遡上が減ってしまったからかはわかりませんが、今は、ワシどころか、カモもカラスさえも姿が見えません。あまりの変わり様に、初めてそのことに気づいた時は、状況をよく理解できませんでした。でも、それから何度訪れても同じ景色が広がっていることを知ると、言いようのない喪失感が襲ってくるようになりました。
以前のにぎやかさが嘘のように、静まり返った川を眺め、車をUターンさせると、足元の枯葉の中から数羽のスズメが飛び上がり、数メートル離れた草先に止まりました。「福良雀!!」と思い、カメラを向けます。草原に紛れた被写体のピント合わせに手間取っている間に、彼らは草先から下りて、地面をつつき始めます。少し近くに寄ろうかと、車をゆっくり動かすと、再び飛び上がり、一旦奥に逃げますが、またすぐに地面に下りてきます。そんなことを何度か繰り返しました。何度飛び上がっても、すぐに餌場に戻ってくるのです。きっと、雪が積もってしまうと、地面に落ちた種などを食べることができなくなるのでしょう。今は天敵よりも、飢えから逃れることへ、全ての力が向けられている様子です。
川に生かされているのは、何も、魚を餌にしている大きな鳥たちばかりではありませんでした。小さな鳥たちもまた、更に小さな草木の種を命綱に、厳しい冬を越えようとしています。大きな変化があると、つい、そればかりに心を囚われてしまいそうになりますが、変わらずにちゃんと残っているものもありました。生き物たちの営みが続けば、やがて、ここへ戻ってくる命もあることでしょう。全てを失った訳では決してないと、スズメたちが教えてくれた気がしました。
多くの方に支えていただき、こうして無事に、今年も終えることができそうです。本当にありがとうございました。皆様に、明るく健やかな一年が訪れますように。
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