一人と一匹
街中の公園には、人に慣れたエゾリスがいることは知っていました。野生動物への餌付けがさほど問題視されていなかった時代もつい最近までありましたから、その名残もあるのかもしれません。でも、この辺りは松の実やクルミ、どんぐりが毎年豊富に供給される森(杜)です。エサ台などなくともリスたちが十分暮らしていける場所で、彼らが人になつくということがあるものなのか、興味深い姿を目撃しました。
私の視線の先には、まだ腹の横にグレーの厚い冬毛を一部残した一匹のエゾリスがいました。そして、その彼の視線の先には、この杜の管理人の方が歩いていました。何となく最初からそのエゾリスが、管理人さんの後をついて行っているように見え、まさか・・・と思いつつも離れたところから眺めていました。エゾリスは背後から管理人さんの前へ走って行き、切株で立ち止まって後ろを振り返ると、また管理人さんの後ろに行き、また前へ走っていくということを繰り返していました。管理人さんがベンチに腰を掛けると、そのエゾリスがまっすぐ目の前までかけていき、視線を合わせて何か会話を交わしているかのように見えました。
確かに、カメラのシャッター音に近づいてくるリスはいますし、木の上でから私たちと目を合わせてくれるのも珍しいことではありません。でも、ただ歩いている人の周りをついて行く姿は見たことがありません。一人と複数匹であれば、餌付けの可能性もあったのかもしれませんが、一人と一匹という関係には別の想像が刺激されます。管理人さんには何か特別な力があるのか、はたまた一人と一匹だけの特別なつながりがあるのか・・・。いつも自分から一方的な熱視線を送ってしまう側としては、その距離感が何とも羨ましくなります。何もしなくても生き物の側からの距離を縮めてもらえる存在に、いつかなれるものなのか・・・。